食品の性状による咀嚼経路の変化

food-cycle.gif

図:筒井昌秀、照子 著 クインテッセンス出版 包括歯科臨床より

豆腐などやわらかい食品では咀嚼経路の側方移動量は少なくストローク幅の狭い、上下運動が主体の軌跡を描きます(B 上段)。

一方、スルメなどの硬い、繊維性の食品では、咀嚼経路の側方移動量は大きくストローク幅が広く側方運動の要素の多い奇跡を描きます(B 下段)。

食品の性状の違いに生じる咀嚼経路の違いをわかりやすくAに示しています。

食品の性状が違うと、なぜこのように咀嚼経路が違ってくるのでしょうか?食品の性状が違うと歯や歯根膜に作用する力や衝撃にも差が生じ、この差が感覚入力の差を生み出し、歯や歯根膜に分布する感覚神経を介して中枢の咀嚼をつかさどるパターンジェネレータに伝えられます。入力の変化により出力が変化しその結果、咀嚼筋の活動が制御され、個々の食品の性状に応じた最適な咀嚼運動が営まれていると考えられます。

もし、Cに示すように、下顎臼歯の頬側咬頭が上顎臼歯にぴったりはまり込み、ゆるみやアソビがまったくないような窮屈な咬合を矯正治療で作り上げたとしたらどうなるでしょうか?生体の感受性にもよりますが、歯が干渉をうけて移動するか、歯が移動しなければ顎が干渉を避けるように動いて、関節の感受性が強い方では、顎関節症が発症するかもしれません。

ブラケットを装着して歯を3次元的に、ほぼ自由に移動することができるようになった現在、歯をどこに移動するかということが問われる時代になっていると思います。

咬合面形態が咀嚼経路に及ぼす影響

cusp-mastication.gif

A:B:よくわかる顎口腔機能 医師薬出版より図転載
C:D:筒井昌秀、照子著 包括歯科臨床より図転載

上下顎の大臼歯は図Aに示すようにA.B。Cの3つの小さな斜面を介して接触しています。
A:上顎頬側咬頭内斜面と下顎頬咬頭外斜面 B:上顎舌側咬頭内斜面と下顎頬側咬頭内斜面 C:上顎舌側咬頭外斜面と下顎舌側咬頭 

代表的な咀嚼ストロークを図Bに示します。1つの咀嚼ストロークは、下顎が開口する第Ⅰ相、作業側(食物をかんでいる側)に偏位する第Ⅱ相、下顎が閉口する第Ⅲ相、滑走する第Ⅳ相、非作業側(食物をかんでいない側)に滑走する第Ⅴ相の4-5の相に分類されます。

これらの4-5の相のうち、第Ⅳ相と第Ⅴ相の経路が、上下の歯がどのようにかんでいるかにより影響を受けます。
第Ⅳ相はA斜面に沿って下顎大臼歯の頬側咬頭が滑走する経路であり、それ故、A斜面の3次元的位置関係が第Ⅳ相の経路に影響を与ます。
第Ⅴ相はB斜面にそって下顎頬側咬頭のない斜面が上顎舌側咬頭の内斜面と滑走し、づづいて下顎舌側咬頭の内斜面がC斜面にそって滑走する経路であり、それ故、B斜面とC斜面の3次元的位置関係が第Ⅴ相の経路に影響を与えます。

図Cはグラインディングタイプの咀嚼サイクルをナソヘキサグラフで記録した結果である。斜め卵型の咀嚼経路を示している。A,B,C斜面が咬耗してガイドが欠如した患者様では第Ⅳ相と第Ⅴ相の水平成分が増加して、咀嚼サイクルは逆三角型となります。

咀嚼運動は3つのパターンに分類される

masticationtype.JPG

咀嚼運動を前方(前頭面)で観察すると主に3つのパターンに分類される。
図は咀嚼運動中の下顎左右中切歯の接触点(切歯点)の動きをなナソヘキサグラフで記録した結果を示す。赤色の経路を通って口が開き、青色の経路を通って閉口する。
(クイッテッセンス出版 筒井昌秀、照子著、包括歯科臨床より引用)

①チョッピングタイプ
図は、左側でチューイングガムを咀嚼した際の切歯点の動きを示している。咀嚼側(咀嚼している側、この場合、左側)のみサイクル運動をおこなっている。食物の臼磨運動(すりつぶす運動)は生じず、かみきる運動が主体で 、開口した位置からほぼ直線的に中心咬合位にかみこむ。

②グライディングタイプ(斜め卵型)
右側で咀嚼している場合の切歯点の動きを示している。いったん咀嚼側(作業側)とは反対側(非咀嚼側、非作業側)に顎が移動しながら開口し、つぎに作業側にもどりながら上顎の歯とかみあい、滑走運動がおきて、食物が臼磨運動によりするつぶされる。、

③グライディングタイプ(逆三角型)
斜め卵型の咀嚼パターンで歯の磨耗が進行すると、臼磨運動の幅が増加し運動経路は逆三角型となる。図は左側で咀嚼している場合を示す。